茶の繊細で豊かな風味の表現 ─ 墨の美学
HEMEL のリーフレットには、「墨」を素材としたビジュアルイメージが印刷されており、これらのイメージを通じて、HEMEL Haute Couture Brew Tea™ の唯一無二で奥深い風味が表現されています。
日本デザインセンター(NDC)で三澤デザイン研究室を主宰する、デザイナーの三澤 遥氏は、抽象的な手法で「墨」という要素をデザインに取り入れ、それぞれのフレーバーが持つ繊細で独特な香りと味わいを的確に表現し、まるで豊かな風味が目の前で広がっているかのような感覚を生み出しています。
このようなデザインは、観る人の好奇心と期待感を引き起こし、深く探究したくなるような気持ちを自然と呼び起こします。HEMEL は、東京・銀座にある三澤デザイン研究室を訪れ、東洋文化である「墨」を素材としたデザイン哲学について尋ねました。
─ HEMEL Haute Couture Brew Tea™ のフレーバーをビジュアルイメージで表現する手法を選択した背景には、どのような理由があるのでしょうか。
三澤:HEMEL を初めて口にした時、その独特な香りと澄んだ味わいがとても魅力的だと感じました。当初は裏面の写真とテキストのみでリーフレットを構成していましたが、初めて HEMEL を味わうお客様にも多彩な味わいを感じていただけるよう、墨のドローイングを用いてそれぞれのフレーバーを表現することにしました。
─ なぜ「墨」をビジュアルイメージの素材として使用することに着目したのでしょうか。
三澤:墨はその濃淡によって、繊細な表現も、荒々しい力強さも表現することができます。HEMEL の奥深い味わいと香りを表現するのに適していると考えました。
HEMEL は、希少な茶葉同士の思いがけない出会いを追求した台湾発祥のブレンディッドティーです。「墨」というテクスチャーは、日本と台湾、それぞれの東洋文化の共通性を感じさせるという意味でも、HEMELというブレンディッドティーを象徴する表現方法になるのではないかと感じました。
通常「墨」と言えば文字を書くための媒体として捉えられることが一般的です。しかし今回は毛筆だけでなく、木製の割り箸や硬質な画材などを用いて紙に墨を擦りつけて描いてみたり、ティッシュペーパーを紙の代わりにして墨を染み込ませたり、指に直接墨をつけて描いたりなど、多様な素材を使った、自由なドローイングを交えた制作を行いました。そして、各フレーバーの特徴にもとづきながら、描いた素材を組み合わせることで、それぞれの香りや味わいを最も適切に表現するビジュアルを構成しました。
─ 各フレーバーについて、どのように墨をデザインに取り入れたか、解説していただけますでしょうか。
The Classy
“ 花々しくクリアな、気⾼い春の味わい ”
The Classy は上品で洗練された、透き通るような繊細な味わいが特徴です。墨のドリッピング(飛沫を散らして描く手法)と、スッと伸びるひとすじの線で、鼻に抜けていくような芳香と気高い春の気配を表現しました。
Time-Honored
“ 幾重にも旨みが重なる、深い森のような味わい ”
Time-Honored の森林のような芳醇な香りや、深みのある味わいを表現するために、墨のどしんとした重厚な質感を取り入れました。重々しい黒の中にも、繊細な濃淡の重なりが見てとれます。深い森の中に身を置いたような、豊かな香りのイメージを感じてもらえるかもしれません。
J. Formosana
“ 蜜が滴る、エキゾチックな味わい ”
リズムを感じるような躍動的なドローイングを組み合わせながら、J. Fromosana の特徴的なエキゾチックな香りや、高雅で華やかな個性を表現しました。
Zintun 18
“ スパイシーに香り立つ、遊び心のある味わい ”
Zintun 18 は、台湾日月潭地域の肥沃な土壌で育まれた貴重な手摘み紅茶をベースに、独自のアッサンブラージュで創り上げられた逸品です。花火のように弾けるようなドローイングによって、高揚感のある香りや、スパイシーで華やかな味わいを感じ取っていただけるように表現しました。
墨によるドローイングは、抽象性が高い表現ではありますが、見た人がそのフレーバーを自由に想像できることが魅力の一つだと思っています。
香りや味わいを言葉で詳細に説明することもできますが、あえて余白を残した表現方法にすることで、お客様に想像する余地を与え、「次はこれを飲んでみたい」という期待感を引き出せたらと考えました。
─ 台湾や日本には、具現化されたものを墨で表現するデザインは多く見られますが、香りや味わいといった抽象的な概念を墨で表現するのは稀です。そこで、このプロジェクトをデザインするにあたって、特別なこだわりや経験などがあったのでしょうか。
三澤:墨を使っていると言っても、「書」のようなものではなく、今回はビジュアルイメージとして捉えています。自由にドローイングを行った延長に、今回のフレーバーの表現が生まれました。
三澤デザイン研究室では、多くのスタディや実験の先にある偶然性を拾い上げるようなクリエイティブのあり方を常に模索しています。モニター上で制作を行うことも普段は多いですが、自由なドローイングを発想の起点とした今回の制作は、手で生み出す喜びや新鮮な楽しさを感じながら制作することができました。
─ 普段デザインやアイデアの創造において、どのようにインスピレーションを得ているのでしょうか。インスピレーションの源泉となるものはありますか?
三澤:デザイナーとして仕事をしているので、観察するための眼は発達しているかもしれません。歩いていているときに目に飛び込んでくるものを見て「もしも」や「たとえば」を想像したりします。なんてことのない些細なものの中に気づきが発見できた時は特別嬉しいですね。
葉っぱや池を眺めながら、ふと思いついたものがあればそのアイデアを形にしてみたりします。よっぽど面白いものは頭の隅に何年もストックできるかもしれませんが、大概のアイデアの場合、記憶から過ぎ去るのは一瞬です。思いついたらアイデアの鮮度があるうちに手を動かして作ってみることが大切です。
あそびの延長で力を抜いてやってみたことが、ひょっとしたら思いもよらぬプロジェクトに結びつくかもしれません。小さな発見の収集の中にこそ、新たな発想の種が隠れているものです。